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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)6264号 判決 1960年9月29日

原告 橋谷株式会社

被告 国

訴訟代理人 越智伝 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

原告の請求の趣旨及び原因は別紙訴状記載のとおりであつて、これに対する被告の答弁は別紙答弁書記載のとおりである。

原告は、食糧配給公団は自己の所有でない澱粉一、六〇〇袋を法律上の原因なくして不当に取得しこれを売却して利得したというが、公団は訴外有限会社共立函館澱粉商会から右澱粉の引渡をうけたものであつて、右商会は公団の指定精粉委託加工業者で、公団からの委託に係る澱粉の引渡義務の履行として商会所有の澱粉を引渡したものであつて、原告主張の損害は右商会代表者太田健蔵等の詐欺によつて生じたものであること原告の主張自体によつて明白である。したがつて、公団の不当利得を前提とする原告の請求はすでにこの点において失当である。のみならず、食糧配給公団解散令によれば、被告主張のとおり、国は公団の債務は承継していないものとみる外はないので、右いづれの点からしても原告の請求はその理由がない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井良三)

訴状

請求の趣旨

被告は原告に対し金四百六十六万八百円也及びこれに対する昭和二十五年十月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。

との御判決を求める。

請求原因

一、原告は函館市海岸町六十二番地に函館営業所を設け倉庫業等を営むもので昭和二十五年一月十九日頃から同年十月頃までの間、訴外食糧配給公団(以下単に公団という)の指定倉庫として同公団所有馬鈴薯精製澱粉の有償寄託をうけていたものである。

二、しかして右公団は昭和二十六年頃解散し、被告は、昭和二十六年政令第二百八十号第三条により改正された、同年政令第五十九号食糧配給公団解散令第十二条第二項により右公団の権利義務一切を承継したものである。

三、昭和二十四年十二月頃から昭和二十五年五月頃までの間、原告は訴外有限会社共立函館澱粉商会から同訴外会社所有の馬鈴薯精製澱粉一等品一、六〇〇袋(一袋十二貫入)の寄託をうけ、かつ、右寄託澱粉について倉荷証券を発行、同訴外会社に交付した。

しかして右訴外会社は

(イ) 同年三月頃債権者訴外藤野藤太郎に対し三〇〇袋

(ロ) 同年四月二〇日頃債権者訴外陳必泰に対し七〇〇袋

(ハ) 同年七月中旬頃債権者訴外小林庄平に対し六〇〇袋

合計 一、六〇〇袋

につき、それぞれ金銭消費貸借の担保として質権を設定、同時に前記倉荷証券を各債権者に交付した。

四、同訴外会社は、また公団の指定精粉委託加工業者でもあつたところ、当時、経営が逼迫していた同会社は昭和二十五年三、四月頃から公団委託加工精粉を横流して、費消横領していたのであるが、原告及び公団に対しては原告倉庫に寄託してあるかの如く作為欺いていた。

五、しかるに同年七月下旬頃、公団から公団委託精粉の出庫指令をうけた同商会代表者太田健蔵等は横領事実の発覚を免れようとして同年八月十五日頃、情を知らない原告倉庫、倉庫番浜野勝太郎を欺いて三項記載の質権を設定した自己所有の澱粉一、六〇〇袋を出庫させ、あたかも公団所有の委託精粉であるかのように装うて、同月十五日から、同二十九日までの間三回にわたつてこれを公団に引渡したものである。

六、右引渡の結果、公団は自己所有でない澱粉一、六〇〇袋を法律上何等の原因なく不当に利得し、その頃これを売却処分して利益を得た。

当時北海道における売却価額は一袋十二貫当り、包装代込み金二九一三円(北海道を売却地とする場合の食糧庁長官摘示価額)であるから公団の利得した価額は一、六〇〇袋合計四、六六〇、八〇〇円であつて、右利得は現存し、かつ二項のとおり国に承継されているものである。

七、つぎに原告は右質権設定澱粉を前記共立澱粉商会の違法行為により公団に引渡したため、倉庫業者として藤野藤太郎、陳必泰、小林庄平の各質権者に対し損害賠償義務を負担、やむなく同年九月頃前記質権者たちに澱粉価額相当金四、六六〇、八〇〇円也を支払い、右同額の損害を蒙つた。

八、よつて、原告は被告国に対し請求の趣旨記載のとおりの不当利得金の返還及び之に対する昭和二十五年十月一日以降完済まで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払を求めるため本訴提起に及んだものである。

答弁書

第一、請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

第二、請求の原因に対する陳述

一、第一項は認める。

二、第二項中、訴外食糧配給公団が解散したことは認めるが、被告国は右公団の債務は承継していない。(その理由は後記のとおりである)

三、第三頂は不知である。

四、第四項中、訴外有限会社共立函館澱粉商会が公団の指定精粉委託加工業者であつたことは認めるが、爾余の原告主張事実は争う。

五、第五項中、公団から右共立商会に対し、澱粉四、七一〇袋の荷渡指図をしたことは認めるが、爾余の原告主張事実は不知である。

六、第六項中、北海道における馬鈴薯精製澱粉一等品一袋一二貫当り包装代こみ金二、九一三円であつたことは認めるが、爾余の原告主張は争う。

七、第七項は不知。

八、第八項は争う。

第三、被告の主張

食糧配給公団解散令(別添参照)第一二条によると、

「1 残余財産は国庫に帰属する。

2 清算人が、争のある債務を含む、すべての債務の弁済に必要な財産を留保し、その残余の財産の国庫帰属について大蔵大臣の承認を受けたときは、その承認を受けた財産はその承認があつた時に国庫に帰属する。」

と規定せられており、国庫に帰属する財産は積極財産のみであつて、公団債務は依然公団において支払われるべきものであることは右の規定上明白である。

よつて被告国の承継しない公団債務(仮に原告主張の如き公団債務が残存するとしても)を支払ういわればないので、原告の請求は既にこの点において失当であり速に棄却せらるべきものである。

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